【連載】BPMN業務フロー入門(2)3つの矢印を使い分けよう

第1章 業務フローの描き方

はじめに

BPMNには3種類の矢印があります。第1回で説明した実線と破線の他にも点線の矢印があります。それらの矢印を上手に使い分けるとBPMNの良さを活かした業務フローを描くことができます。今回は、3つの矢印を使い分けるメリットを確認しながら、BPMN仕様違反を犯さない描き方を学んでいきます。

BPMNで描く図面に求められること

BPMNは「Business Process Model and Notation」という名称が示すようにビジネス・プロセスを記述するものです。ビジネス・プロセスとは「業務の目的を達成するための一連の行為」のことで、それを図にすることで一連の行為が管理しやすくなります。プロセス管理者の視点でみると、BPMNで描く図面には以下のようなことが求められます。

  • 誰がボールを握っているかがチェックしやすい図面であること【進捗管理の視点】
  • どのような場合に、誰がどんな作業を実施するのか見える図面であること【要員管理の視点】
  • どこでどれくらい時間がかかっているかチェックしやすい図面であること【コスト管理の視点】

実線矢印と破線矢印を使い分けるメリット

実線矢印と破線矢印を描き分けるメリットを進捗管理の視点でみていきます。なお、実線と破線を描き分けるとは、プール(業務管理の対象範囲内)とプールで線を区別することを意味します。

図①はプール内外で線を区別していません。顧客が提案書評価を実施している期間は「顧客がボールを握っている」というように見えます。もしも提案書評価が遅れたとしたら、それは顧客に責任があるという感じになってしまいます。
一方、図②ではプール内外で線を区別しています。区別しているだけではなく実線の矢印で2つの作業が繋がっている点が大切です。「提案書提出」が終わったらボールは実線の矢印に沿って流れ、ボールを再度受け取った営業が主体的に「いつ評価結果回答がもらえるか」を顧客と約束することになります。業務管理の対象範囲を超えてボールが渡ることはありません。
管理者が督促するための図面としてどちらが良いかは一目瞭然ですよね。図①のような描き方はBPMNでは仕様違反になります。正しくは図②のように描く必要があります。

書類やデータの流れを点線で表す

BPMNでは書類やデータの流れを「データ関連」と呼ばれる点線で表します。

上図の通り、書類やデータの流れを描くためには点線以外の図形も必要です。
「データオブジェクト」は書類やデータを表すものです。ただし、プール間でやり取りされる書類やデータはメッセージフローを使うので、プール内でやり取りされるものに限定して使います。
「データストア」は情報システムなどに保存された情報を表すものです。データオブジェクトとは異なり他のプールとのやり取りに使用することもできます。メッセーフローでは表せない「一端データを溜める(すぐに情報が利用されるわけではない)」という挙動を含む図形です。
さらにパソコン画面など自由な図形を使用することも認められています。そのような図形を「拡張成果物」と呼びます。

実線矢印と点線矢印を使い分けるメリット

実線矢印と点線矢印を描き分けるメリットを、今度は要員管理の視点でみていきます。業務フローのどこでどのような作業が発生するのかをイメージしながら次の図を確認してみてください。

図③は良く見かける描き方ですが、書類やデータの流れと作業の流れが混在しています。そのような描き方をすると「書類を作成する作業なのか」、それとも「単に書類を参照するだけなのか」が曖昧になってしまいます。業務を知る人がみれば「営業が製造指示書を作成する」、「在庫管理台帳は生産計画を立案する際に単に参照するだけ」ということがわかりますが、知らない人にはわかりません。図④のように作業を全てアクティビティで記述する方が、どこでどのような作業が発生するのかが明確になります。
図③のような描き方はBPMNでは仕様違反になります。正しくは図④のように描く必要があります。

なお、BPMNでは図④を下図のように描くこともできます。書類やデータが沢山あると、図④の描き方では業務フローが煩雑になりがちですが、こちらの描き方にするとスッキリと見やすくなります。

まとめ

3つの矢印を使い分けることで作業の流れをハッキリと目立たせる描き方がBPMN流であることをみてきました。BPMN流に慣れるまでは、BPMN仕様違反を犯しにくい以下の手順で業務フローを描くことをお勧めします。

  • 手順1:プールとレーンを配置する
  • 手順2:全てのアクティビティを洗い出しレーンに配置する
  • 手順3:シーケンスフロー(実線)/開始終了イベント/ゲートウェイでアクティビティを繋ぐ
    ※この時、開始イベントから終了イベントまで実線で繋がっていることをチェックする
  • 手順4最後にメッセージフロー(破線)/データ関連(点線)/書類やデータを表す図形で業務フローを飾る