【連載】BPMN業務フロー入門(5)作業の分散と集約

第1章 業務フローの描き方

はじめに

BPMNを活用しながら業務プロセスの改善を検討する方法について解説します。今回は、作業を分散したり作業を集約したりすることで業務フローの最適化を図る方法を紹介します。分散と集約について、次の3つの視点で見ていきます。

  • 業務フローの分散と集約
  • 作業タイミングの集約
  • 作業実施者の集約

分散と集約のイメージをつかむ

まずは業務フローの話をする前に、作業の分散により迅速化を図るイメージと、作業の集約により効率化を図るイメージを掴むことからはじめます。少し古い例えにはなりますが、火事が起こった時に水を汲んだバケツで消火する活動について考えてみたいと思います。

図のように2軒の家で火事が起きたとします。近くの池から火事の現場までバケツリレーで水を運んで消火します。1軒ずつ順番に消火していては、後回しとなる1軒が手遅れとなってしまいそうなので、2つの列でバケツリレーを行います。最初の人は両手で持った2つのバケツに水を汲み2人にバケツを渡します。これが迅速化のために作業を分散している様子を表しています。

池で水を汲む人に消火した後のバケツを戻すためのリレーは、1つの列にすることで省力化を図ります。別々にリレーしている2つのバケツを別々の列で戻すと無駄に人手がかかるので、2つのバケツを1つにまとめて戻し半分の人数で済むようにしています。 これが効率化のために作業を集約している様子を表わしています。

BPMNで分散と集約を描く

業務フローを分散する様子と集約する様子を、BPMNでは下図のように記述します。

業務フローの分散は、分散させたい数だけ矢印を描きます。上図では作業Aの後で3つに分散されています。
業務フローの集約は「+」記号の付いたゲートウェイを使って表します。そのようなゲートウェイのことを並列ゲートウェイと呼びます。

BPMNで描いた分散と集約の様子をさらに詳しく見ていきます。第2回の説明でも使った「誰がボールを握っているの?」というイメージで解説すると下図のようになります。

  • ① 作業Aが終わると3つの矢印に3つのボールが流れていきます
  • ② ボールを受け取ったBとCとDで作業を実行します
  • ③ 「+」記号は全てのボールが揃うまで次にボールを渡しません。3つ全てが揃ったら1つのボールが流れていきます
  • ④ ボールを受け取った作業Fを実行します

作業タイミングを集約する

次に作業タイミングの集約という視点について説明します。職場でペンやテープなどの消耗品を発注する作業を事例として見ていきます。

ある職場において消耗品が足りなくなったとします。足りなくなった時にすぐに業者に発注すれば物を早く手に入れることができますが、少し効率が悪い気がしますよね。まとめて発注すれば発注作業も1度で済むし、配送料も節約できます。

下図のBPMNは「消耗品購入依頼を17時まで溜めて、1日分をまとめて発注する」という様子を表しています。

タイマーイベントと呼ばれる図形は、時間が経過するまで流れを止める役割を持ちます。タイマーイベントの下には「いつまで流れを止めるか」を文字で記述します。

タイマーイベントは、業務フローのどこに記述するかによって図形が変わることに注意が必要です。業務フローの開始地点で使用して業務プロセスを開始するタイミングを表す場合には一重線丸印のタイマー開始イベントを使用します。業務フローの途中で作業を開始するタイミングを表す場合には二重線丸印のタイマー中間イベントを使用します。

作業実施者を集約する

作業実施者を集約するイメージについて、下図のBPMNで確認してみてください。技術部門の方が担当していた窓口業務と業務部門の方が担当していた窓口業務を、「サポート窓口」という窓口専門の新たな役割に集約している様子を表しています。

作業実施者を集約するメリットは様々あります。例えば、手慣れた専門家により作業品質の向上が図れる、空き時間を少なくするような人員配置が容易になりコストが削減できるなどです。

作業実施者の集約を考える際には、専門家組織を活用する経営手法「シェアードサービス」や「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」についてWebで検索してみてください。メリット・デメリットや注意すべきことなど、実施者集約の参考となる情報を収集できると思います。

まとめ

作業の分散と集約についてメリットを主体に見てきましたが、どのような改善策でもデメリットがあることに留意してください。バケツリレーにおける分散の例では、2つの家を消火するまでの時間は半分で済むというメリットがありますが、集める人もバケツも2倍必要になるというデメリットもあります。
改善策のメリットを活用すると共に、デメリットを許容できるのか判断したり、デメリットに対する対策を講じたりしながら最適な業務プロセスをデザインするように心掛けてください。